東京高等裁判所 昭和63年(ラ)366号 決定 1988年6月27日
抗告人 佐々木誠一
古宮和弘
相手方 オリエントリース株式会社
右代表者代表取締役 宮内義彦
主文
本件抗告をいずれも棄却する。
抗告費用は抗告人らの負担とする。
理由
一 本件抗告の趣旨及び理由は、抗告人ら各作成の別紙抗告状各記載のとおりである。
二 本件記載によれば、次のとおり認められる。
(一) 椎名均は、原引渡命令添付別紙目録記載の土地及び建物(以下、本件物件ともいう)につき、昭和五九年五月一七日持分移転登記(土地につき)、所有権保存登記(建物につき)を経たが、申立外住宅金融公庫は、本件物件につき、同日受付、同日金銭消費貸借設定、債権額金八三〇万円、債務者椎名均の抵当権設定登記を経たところ、右抵当権は、昭和六一年八月二五日(財)公庫住宅融資保証協会に移転され、昭和六二年四月二二日右協会より浦和地方裁判所川越支部に不動産競売申立がなされ、同六二年四月二五日本件物件につき差押登記がなされた。
(二) 抗告人古宮は、昭和五九年九月一一日、椎名亮一(椎名均の実兄)に対し、金二〇〇万円を貸し、同月一二日、本件物件につき債権極度額金四〇〇万円、債務者椎名亮一の根抵当権設定登記及び停止条件付賃借権設定仮登記手続を経た。
(三) 昭和六一年初めころ、椎名均の父が経営する株式会社椎名建設は、手形不渡を出して倒産した。抗告人古宮は、昭和六一年一月二二日本件建物につき貸主椎名均、借主抗告人古宮、賃料一か月金七〇〇〇円、敷金なし期間昭和六一年二月一日から同七一年一月末日までとする賃貸借契約を結んだ。その后、昭和六一年九月一日抗告人古宮は内藤美恵子との間で本件貸室賃貸借契約を結び、賃料一か月金六万五〇〇〇円、敷金三二万五〇〇〇円、権利金一五〇万円とし、建物賃貸借公正証書を作成した。さらに、右内藤美恵子は、昭和六一年一一月一日、本件建物のうち居室六畳部分について抗告人佐々木との間で賃貸借契約を結んだ。
以上のとおり認められる。
右の事実によれば、抗告人古宮が本件建物につき賃借権を取得し、仮登記を経由したとしても、その目的は、専ら椎名亮一に対する債権の履行確保のために、本件建物の担保価値を把握しようとしたもので、本件建物の用益自体を目的としたものとは認められないし、又、抗告人古宮が、内藤美恵子に本件建物を転貸したのも、右賃借権を利用して債権の満足をはかるものであると推認することができる。
このように、不動産の用益それ自体を目的とするのでなく、実質が担保権と異なるところのない賃借権又はその上に成立した転借権については、差押えの効力発生前からの占有者であつても民事執行法八三条一項本文にいう「事件の記録上差押えの効力発生前から権原により占有している者でないと認められる不動産の占有者」又はこれに準ずる者として、引渡命令の相手方となると解するのが相当である。
そうすると、右のような賃借人である抗告人古宮、転借人である抗告人佐々木は、いずれも本件引渡命令の相手方となるべきものであるから、原決定は相当であつて、本件抗告は理由がない。よつて、これを棄却する
(裁判長裁判官 武藤春光 裁判官 菅本宣太郎 秋山賢三)